韓国NGO代表 シン・ジニョン
現在、韓国では進歩・左派政党の「共に民主党」(以下、民主党)が、国会の過半数を占める巨大与党として、国会運営委員長をはじめ、各専門分野の常任委員長11のポストを独占し、牽制装置もなく独走している状況である。
平等法(差別禁止法)の推進
こうした状況下で、民主党が今年6月に平等法を発議。さらに9月にも再び、包括的差別を禁ずる法案を提出した。この法案は、すべての領域で、女性、男性、「その他の分類しにくい性」と定義した「第3の性別」について差別しないことと、同性愛などを含む性的指向について分離したり、区別、制限しないよう規定している。
西欧の例を見れば、この平等法が通過すると、家庭においては性転換を望む子供に親が反対すると違法行為とされ、教育分野では同性愛や同性カップル、肛門性交も普通に教えなければならなくなる(西欧では施行中)。さらに医療分野では、性転換手術に対して、スタッフは無条件に同意しなければならない。当然、同性カップルによる養子縁組の問題も生じる。
何より、YouTube配信や講演など、自分の良心による価値観を言葉で表現するだけでも、犯罪者とされる危険性があり、個人の良心の自由、表現、学問、宗教の自由を深刻に侵害する結果を生む。すでに欧米諸国では、平等法(差別禁止法)は国民の自由を奪う法として君臨しており、その弊害が明らかになっている。
民主党ではまた、「家庭」を婚姻・血縁・養子縁組からなる社会の基本単位として定義している「健康家庭基本法」の改正を絶えず進めている。家庭の定義を削除し、「健康家庭」という言葉をなくし、家族の範囲を単身世帯や同性世帯、同居世帯などに拡大しようとしている。これは、フランスのPACS(Pacte civil de solidarit)に代表される、西欧の大部分の国が同性婚が成立する前に実施した、「生活同伴者法」(※)と同一の内容であると見ることができるだろう。
※ 血縁と婚姻関係を超えて一緒に暮らす人が同伴者として指定され、同性関係も同伴者として認められる法で、韓国ではまだ成立していない。
その他にもメディアや教育に対する、数多くのジェンダー平等と多様性に関する法律が発議されており、政権与党が法制司法委員会・委員長を占める独占的な構図で、このような差別禁止関連の法の通過を食い止めることは非常に困難だ。
教育現場の状況
小、中、高等学校では「ミニ差別禁止法」と呼ばれる学生人権条例が推進されている。性別、性的指向、妊娠、出産について差別されない権利などを掲げており、性自認に悩む学生が相談をできないように妨げ、学生に義務や責任意識のない無条件的権利を付与している。
韓国最高の大学といえるソウル大学の総学生会長にレズビアンが当選したことを筆頭に、現在60以上の大学で同性愛サークルが活動をしている。
19年度には、ジェンダーの風が大学街を席巻する中、女性を保護することができるのは女性であるにもかかわらず、ソウル圏の全大学で総女子生徒会が廃止された。また、主要な大学街でマルクス・フォーラムが開催されており、知識人にマルクス思想と哲学が徐々に普及している。
韓国にはすでにソウル大学はじめ86の大学で人権センターが設立されているが、2021年2月には大学内の人権センターの設置を義務付けることを主とする内容の法律が可決された。これらの人権センターは、ジェンダーイデオロギーの広報の場として、若者たちにジェンダーイデオロギーを教えるのみならず、執行機関としての役割も果たすだろう。
「人権」と「自由」の名のもとで推進されている各種の差別禁止法と制度は、自分の価値観を表現することも不可能にする「反対意見禁止法」であり、善良な良心と精神性とを侵害しながら、国民の心と口に轡(くつわ)をはめる不平等法であり、逆差別法である。不道徳的で悪いと考える行為を批判することは、常に表現の自由として許されなければならない。表現の自由があってこそ、真理を探求する議論が可能となり、真実を究明することもできるからだ。
危機感をもつキリスト教徒など市民団体が連帯
韓国では現在、全能の権力を握った与党のもとでの数多くの危機的状況を受け、ジェンダーイデオロギーと平等法の弊害を懸念する市民団体が連帯し、積極的な代案づくりに乗り出している。YouTubeチャンネルを開設し、ジェンダーイデオロギーに隠された唯物論の思想的背景と西欧の被害事例を紹介し、持続的な真実の伝達に力を入れている。
韓国においては、特に朝鮮戦争を通じて共産主義がどれほど恐ろしいかを経験し、教育を受けた世代も大きな役割を果たしている。また、キリスト教を中心とした市民団体が、「人権」と「平等」という言葉の裏に隠された悪弊を詳しく知れば、国民の誰もが反対するであろうという信念をもって、美化されたLGBT運動の実態と弊害を国民に知らせるために尽力している。
差別禁止法の制定を核心推進課題としている文在寅(ムン・ジェイン)政権は、当初は若者や知識人たちから多くの支持を受けたが、不動産政策の失敗、曺国(チョ・グク前法務部長官)不正やソウル市長などの性暴力事件などが続き、世論に追い込まれる雰囲気が造成された。
これに未来世代と健康な家庭を守ろうとする市民団体は、主要法案が発議されるたびに専門家を招聘して緊急対談や、記者会見を開き、主要問題に対する声明書の発表、一人デモへの参加、Mom Café(暮らし、育児、地域情報などの情報共有を目的として「ママ」が集まったサイバー上の同好会)、個人ブログ、カカオトーク(韓国でメジャーな無料通話・メッセンジャーアプリ)での情報共有、横断幕の掲示、地下鉄でのチラシ配布などの積極的な運動を繰り広げてきた。
しかし今年8月25日には、言論を最終的に国が握るという「言論仲裁法」が早朝に一方的に可決されてしまった。今後、真実を知らせるための取り組みには多くの難関が予想される。
アジアで緊密な関係にある日本と韓国の良心的な層が、今後も続くこの恐ろしいLGBTのジェンダーイデオロギーの戦いで一緒に手を取り合って連携し、家庭と未来世代を守る慧眼(本質を見抜く力)を持ち、堂々と対抗し勝利することができることを期待したい。
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